歴史が面白い3

 ウイルスの発生源について、トランプ大統領やポンペオ国務長官は中国湖北省武漢市のウイルス研究所だと訴えてきたが決め手を欠いている。「多くの証拠がある」としてきたポンペイ氏は最近になって「研究所から流出したか、ほかの場所からなのか確信があるわけではない」とやや発言を修正した。

 

 真相のカギを握るとみられているのが武漢ウイルス研究所の石正麗氏だ。コウモリ由来のウイルス研究者の石氏は「バットウーマン(こうもり女)」の異名も持つが3月ほど動静が途絶えていた。5月になって石氏が中国の国営TVに登場し、インタビューに答え、昨年12月30日に感染者の検体が研究所に持ち込まれたと経緯を説明。そのうえで、「我々が知っているウイルスの配列と違うことを証明し、新型コロナウイルス命名した」と指摘し、研究所からのウイルス漏洩を否定した。

 

 また、同時期に日経サイエンス(SCIENTIFIC AMERICAN June 2020)に、「追跡、新型ウイルスの起源 中国のコウモリ洞窟を探る」を北京を拠点に活動しているサイエンスライターであるJ.チウが載せている。

ここで石氏が2004年、SARSウイルスの自然の保有宿主を発見した経緯と遺伝解析の結果でこのウイルスは何回か人間にジャンプし致死的な病気を引き起こしていることを示している。そして人間と野生動物が接触する機会が増え、こうしたアウトブレイクが起こりやすくなっているとしている。

また、中国政府は2月24日、研究と医療用、展示目的を除く野生動物の消費・売買

を恒久的に禁止すると発表した。この措置で760億ドル(約8兆1000億円)規模の産業が消え、およそ1400万人が職を失うという。これは闇市場に押し込めるという懸念があるというが、大変規模の大きな数字である。

 

 日経新聞(5月9日真相深層)によると、新型コロナウイルスについては、人為的に作られたものではないか、あるいは武漢の研究所から漏れ出たのではないかとの憶測があるという。そして人為起源説は、世界の多くの科学者だけではなく、米政府の情報機関すらも否定している。漏出説に対しても、武漢の研究所が持つウイルスと新型コロナの遺伝情報の違いから科学者の間には懐疑的な見方が多い。また危険度の高い病原体を扱う実験は二重,三重の厳しい管理下で行われ外部に持ち出されることは一般に考えにくい。ただ未公表のウイルス保有など仮定すれば、漏出説を完全に払拭するのは容易でない。

 

 発生源を探ることは、政治的な話も入り、これ以上は生産的な話ではない。本質的な話は、このウイルスがRNAウイルスで複製の際に変異を起こしやすく、さらにほかのコロナウイルスと相同組み換えを起こす。コウモリが媒介するウイルス感染症アウトブレイクは過去30年にヘンドラ、ニパ、マールブルグ、SARS、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラの例があり、今回はそれらに続く事例である。コウモリを中心とした野生哺乳類に少なくとも32万種類の未知のウイルスが隠れているという推定もある。我々はウイルスに囲まれており、今回のような発生は確実にこれからも起きるといえる。そういう前提に立ち、今後のウイルスへの対応を考え、ウイルスとの共生の時代をどう生きていくか探ることがなにより肝要である。