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令和2年8月31日とPCR検査「中」

  <8月31日>

8月の感染 最多3.1万人超。8月の国内の新型コロナウイルスの新規感染者数は30日時点で3万1488人となり、過去最多だった7月の1.8倍に達した。8月だけで累計感染者数の47%を占めた。ただ同月上旬をピークに減少傾向が続いており、お盆期間中の人の移動の影響は限定的だったとみられる。死亡者数や重症者数は4月の「第1波」を下回っている。1日当たりの新規感染者数(7日移動平均)は7月末に1千人を突破し、8月9日には1369.3人とピークに達した。30日には750.9人とピーク時の5割強の水準で推移する。

政府の分科会は発症日別の感染者数から「7月27日~29日以降、緩やかな下降がみられる」と評価しており、国が「GO TO トラベル」事業を開始した直後の7月下旬ごろが感染のピークだったとみられる。(日本経済新聞9月1日)

 

コロナ重症化予測千葉大学大学院医学研究院と同大学医学部付属病院は、新型コロナウイルスの重症化を予測するシステムの開発に向け臨床研究を始める。重症化につながる血管関連の疾患に関係する分子に着目し、感染者の血液を解析して重症化との関連性を調べる。コロナ感染で生じた血管の炎症が脳卒中などの血栓症や血管炎を引き起こし、重症化する症例が国内外で相次いでいるという。(同)

 

日本人宿泊者46%減 7月観光庁が31日に発表した宿泊旅行統計によると、7月の日本人宿泊者数は前年同月比46%減の延べ2226万人だった。6月の61%減と比べるとマイナス幅は縮小した。5月は82%減であった。(同)

 

医療機関の経営下支え新型コロナウイルスの感染拡大を受け、首都圏の自治体が医療機関の経営支援に乗り出している。練馬区は4~6月の前年同期と比べた減収分を補填し、7月以降は患者を受け入れた実績などに応じ補助額を決める。神奈川県は感染者や疑い患者の受け入れに備えた設備投資に補助するなど。ほかに三鷹市や埼玉県戸田市、千葉県の取り組みもある。(同)

 

<<PCR検査「中」>>

 

PCRを含む新型コロナウイルス感染に対する検査方法について整理したい。

 

検査方法は、遺伝子検査、抗原検査と抗体検査に大別できる。

新型コロナウイルスは、遺伝子としてRNAを持つ一本鎖プラスRNAウイルスである。RNAウイルスでも、コロナウイルスの場合は、mRNAと同じ極性を持つプラス鎖RNAであるが、インフルエンザウイルスの場合は、mRNA相補的な極性を持つマイナス鎖RNAである。今回の新型コロナウイルスのように、プラス鎖RNAウイルスは、このゲノムRNAから、ウイルスタンパクに翻訳され、他方インフルエンザウイルスのようなマイナス鎖RNAウイルスは、相補的なプラス鎖RNAを鋳型として、ウイルスタンパクか゛翻訳される違いがある。

ウイルスの感染・増殖については、ウイルスと相性の合う動物・細胞のみに侵入・増殖ができる。新型コロナウイルスの場合、ウイルスの表面にあるスパイクに結合する受容体(ACE2)を持つ細胞と結合する。ちょうどスパイクが鍵、受容体が鍵穴のような関係で、これらが結合するして鍵穴が開くと、ウイルスはその細胞内に入ることが許される。

細胞内に侵入したウイルスは、自分自身の設計図の役割を果たすRNAを注入することで、ヒトの細胞を「工場」として稼働させ、ウイルスの様々な部分を複製する。それを集合・成熟させてウイルスを大量に増殖させ、出芽・放出することで最終的にその細胞を破壊する。

このACE2受容体をもつ細胞は、特に鼻や喉を含む気道や肺などにあるため、新型コロナウイルスは呼吸器症状を起こし、肺の奥にある肺胞をも損傷するといわれる。また、舌の上皮細胞にもACE2受容体があり、ウイルスはそこに侵入・増殖するので口中や唾液には多量のウイルスが含まれ、会話でも伝播する可能性がある。

新型コロナウイルス特有の症状として味覚障害・嗅覚障害があるが、これはACE2受容体の多い舌、鼻の奥の細胞にウイルスが侵入・増殖することで細胞・組織に損傷・炎症が起こるためである。

 

PCR検査とは、(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、検体の中に微量のウイルスしかなくとも、その遺伝子の一部であるポリメラーゼを連鎖反応で増やして検出する方法で「核酸増幅法」とも呼ばれる。鼻から綿棒を入れ、ウイルスが多く存在する鼻咽頭から検体を採取するが、症状発症から9日以内であればウイルスが多く存在するので、最近では唾液を使って検査できるようになった。抗原・抗体検査と比べると、検査に高い技術と特別な機器が必要で、検査に要する時間も1~5時間と長い(3月に米アボット社の機器では定性検査だが、検体が陽性なら5分、陰性なら13分で判定できるが)。

PCR検査では、感染していなければ99%の人が検査で陰性になるが、逆に感染していても3~4割の人が陰性となり感染者を見逃してしまう。これは検体を採取する時期、採取の仕方・取扱い方、検査の技術など様々な要因があるといわれている。

 

抗原検査は、ウイルスがもつ特定のタンパク質である抗原を検出するものである。特別な検出機器は必要とせず、鼻から綿棒を入れて採取した検体を使って、30分以内に結果が出るので、簡易診断として有効である。PCR検査に比べると精度が低く、より多くの感染者を陰性として見逃してしまう。しかし、発症後2日目~9日目の症例ではウイルス量が多く、PCR検査と抗原検査の結果が一致率が高いとの分析結果もある。

 

抗体検査は、ウイルスに感染した時、それを体内から除去しようと身体が作り出すタンパク質である抗体を検出するものである。抗体には5種類あるが、検査では主に、感染したことを示すIgM抗体、予防する免疫の有無のIgG抗体を調べる。ただし、新型コロナウイルスでは2週間ほどでIgMが8割の人に、3週間ほどでほぼすべてのひとにIgM抗体または抗体が検出されるが、発症してしばらくは抗体は検出されない。したがって、抗体検査は過去に新型コロナウイルスに感染したかどうかは判断できても、現在感染しているかどうかの判定には向かない。特別な機器はいらず、約15分で迅速に結果の出るものもある。

 

直近の検査の動向については、8月4日の日経新聞の記事によると、唾液などから簡易に調べるPCR検査機器の開発が相次ぐなか、検査件数の伸びずにいるという。精度に不安があるとして一部の感染症の専門家や医師が利用に慎重なためだという。

厚生労働省は6月に唾液で検体を採取するPCR検査を保険適用することを認めた。タカラバイオ島津製作所は鼻の奥だけでなく唾液にも使える検査用の試薬を開発した。通常のPCR検査を簡易にする動きも出てきた。遺伝子検査装置のプレシジョン・システム・サイエンスは8月3日、全自動PCR装置を国内で発売した。採取した検体からウイルスのDNAを抽出、そのDNAを増殖し陽性か陰性かを判定する一連の工程を自動化した。その判定までの時間は2時間。

普及を阻む大きな理由が専門家や医師の消極姿勢だという。PCR検査の精度は高くて70%(厚労省)とされるが、医療の現場には「唾液検査の精度はもっと低い」との懸念がある。精度が100%ではない中で、実際は感染をしていない陰性にもかかわらず陽性と診断が出る「偽陽性」が出てくる可能性がある。その場合、本来必要のない患者が入院をして治療を受けることで医療現場の逼迫につながるとの考え方が一部の専門家や医療関係者に根強くあるという。

 

(コメント

普及を阻む専門家や医師がいるという前提でそれに反論をのべると、まず第一にPCR検査の性格から「偽陽性」は出にくいことがある。そもそもウイルスの存在しない感染していない人からは、ウイルスを検出して陽性判定するPCR検査では陽性とはなりようがない。さらに、「偽陽性」の人の入院については、軽症者や無症状者の宿泊施設や自宅で療養するようにという厚労省のガイダンスが出され、また感染症法の運用見直しで入院に及ばないことが予定されている。よって医療現場の逼迫につながらないと考えられる。

 

さらに、同新聞記事によると、今後新たに新型コロナウイルスの検査手法として、塩野義製薬、日大などによる唾液による検査(SATIC法)は9月から発売で、専用試薬で20~25分で判定。キャノン メディカル システムズによる唾液でもできる検査(LAMP法)は9月発売で、10分程度判定。メディカ ロイドによる唾液などによるPCR検査は10月発売で、試薬調整など検査工程のロボット化。開発が相次ぎ実用化がなされていく流れとなっていく。

検査強化が叫ばれているなか、経済再開と感染防止の両立を図るうえで、賢明な判断の下最適な施策を一層強力に進めてもらいたい。