歴史は面白い98

令和2年9月20日

  <9月20日>

コロナ注目論文 米中が圧倒。論文の注目度を表す被引用数で中国が1位、米国が2位だった。論文数では米国が1位、中国が2位。論文の量だけでなく質でも米中が他国を圧倒し、2強体制でけん引している。ただ、米中のデカップリングが顕在化しており、研究推進への懸念が広がる可能性もある。

中国の方が引用数が多い点については、科学技術振興機構の島津博基フェローは「中国は初期の基礎的な成果を発表し、引用されやすかった」と指摘。注目論文の中には、予防や検査方法など新しい日常生活の根拠を示したものも多い。中国・広州医科大学などが4月中旬に発表し、150回以上引用された論文は、感染者が出すウイルスの量は発症前か発症時に最も多くなると推定し、無症状者からの感染が一定程度起きることを示した。症状のある人だけがマスクをするのでは感染拡大防止には不十分な可能性を指摘した。

WHOは当初、無症状の人について、予防目的でのマスク着用は不要としていた。だが6月には感染が拡大中の地域で公共交通機関などを利用する際にマスクの着用を推奨するとの指針に改定。同論文は指針変更を決める一因となった。

 

日本、量・質とも遅れ。日本は総論文数は342本、被引用数は2078回で、いずれも米中の約10分の1以下。大規模集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で得たデータを世界に発信する研究につなげられなかったと専門家は指摘する。

今回の分析で日本が上位につけたのは、被引用数順位で、京都大学チームの論文1本だけ。「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者のうち600人余りを対象に、無症状の人は2割弱であることを明らかにし、「感染予測」の5位に入った。ただ、全体では十分に生かせなかった。

日本にとって「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染は貴重な機会であった。欧米などに感染が拡大する前の2月ごろに発生し、まだ世界中で臨床データの治験が乏しい時期だった。臨床データを生かせなかった理由について、島津フェローは「医師が得たサンプル(臨床データ)を研究者に行き渡らせる仕組みづくりが日本はできていなかった」と嘆く。臨床研究体制の弱さがあだとなり、世界の知見の積み上げや共有に貢献する機会を逃した。(日本経済新聞9月21日)

 

 

「黒船」コロナ、変革迫る東京大学松尾豊教授に聞く。-日本はAIの導入が遅れいるのでは「基礎力(の差)としか言いようがない。普段からデジタル、オンライン、AIをどこまで活用しているか。いつも使っているものは有事の際にも応用が利く。日本の場合はそこが準備できている状態ではなかった」-AI分野での中国の研究のレベルをどう見るか「最近、論文の情報を検索しても中国語でしか出ないケースが増えている。中国の力が上がっていることのあらわれだと感じている。(研究の)実力的にも米国とがっぷり四つを組めるほどになっている。もはや(米国を)上回り始めていると逝ってもいかもしれない」(同)

 

アビガン 製造販売申請へ富士フィルムホールディングスが新型コロナウイルスの治療薬候補「アビガン」について、製造販売の承認を厚労省に近く申請することが20日、分かった。厚労省は年内に承認する可能性がある。アビガンは観察研究と呼ばれる枠組みで、すでに一部の医療機関新型コロナウイルスの治療に使われている。治療薬として承認されれば幅広い医療機関で使えるようになる。(同)

 

コロナ対策 再び強化新型コロナウイルスの抑制策を再び強化する動きが米欧で広がってきた。米国は感染の疑いがあれば無症状でも検査するよう指針を改めた。英国は外出自粛のルール違反への罰則強化を決めた。

疾病対策センターCDC)が18日、検査の方針を改めた。感染者と接触した人には無症状でも検査を推奨する。8月下旬、無症状ならば検査が不要との姿勢に転じたが、無症状でも検査すべきだとの批判が専門家から相次ぎ寄せられた。(同)

 

 

(コメント)

ダイヤモンドプリンセスの集団感染の経験が研究論文に生かせいないのは残念なことだ。当時は研究に使う臨床データの収集どころではなく、目の前の感染者をどうする、感染が疑われる人をどうするかなど国(厚労省)としての対応に追われていた。国家の危機管理体制ができていなかったのだ。

2009年の新型インフルエンザ流行の時、専門家を招集して問題点を洗い出し、2012年5月には新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)を成立させた。

2013年6月には特措法に基づく「行動計画」と「ガイドライン」を決めている。

そこには、調査研究として
① 国は、新型インフルエンザ等の国内発生時に、迅速かつ適切に積極的疫学調
査を実施できるよう、専門家の養成や都道府県等との連携等の体制整備を図る。
厚生労働省
② 国は、季節性インフルエンザ及び新型インフルエンザに関する疫学、臨床、
基礎研究や検疫等の対策の有効性に関する研究を推進し、科学的知見の集積を
図る。(厚生労働省

としている。

行動計画には、平常時からの医療体制の整備として、パンデミック下の特別隔離病床など必要な病床の増強、医療者の防護服・医療用マスクの確保、PCR検査体制の拡充、一般国民が広くマスクを着用できるような供給体制、等々、今回逼迫して問題になったことがすべて゛政策課題゛として掲げられていた。

サーズやマーズはアジア各国で、新型インフルエンザはドイツやカナダなどでその対応の反省から医療体制の充実が図られてきたという、日本は反省したが実行されたとはとても言えない。今後もウイルスとの戦いは続く。おそらく今回も検証され、行動計画も出されるだろう。問題はそれが実行されたか、国民はそれを検証していく必要がある。