歴史が面白い107

令和2年9月29日

  <9月29日>

新型コロナ薬 治験へ東北大学発スタートアップのレナサイエンスは新型コロナウイルスの新たな治療薬を開発した。ウイルスによる重症化を抑える仕組みで、10月から日本と米国、トルコの3カ国で有効性を確かめる臨床試験を始める。新薬候補は血栓などに関係する「PAI-1」というたんぱく質の働きを阻害する仕組み。2021年末から大規模な最終治験に進む考えで、23年の実用化を目指す。(日本経済新聞9月30日)

 

唾液PCR、精度9割北海道大学病院は29日、唾液による新型コロナウイルスのPCR検査の精度が90%に達したとの調査結果を発表した。1924人検体を採取して調べたところ鼻粘膜と同程度の精度であった。まとまった規模でPCR検査の精度を調査した例は世界でも例がない。(同)

 

(コメント)

免疫学の第一人者である宮坂昌之氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授、阪大名誉教授)に免疫からコロナ感染について

 

「抗体だけが免疫の主体であるかのように言われている。新型コロナでは6割の人が免疫を獲得しないと流行が収まらないという仮説があるが、あくまでも抗体だけで免疫が成立しているという前提に過ぎない。一定量のウイルスが入ってきても決して6割が感染するなんてことは起こらない。中国・武漢でも最大2割しか感染していない」

「私たちの免疫は2段構え。最初は自然免疫が働いて、城門で待っている兵隊のような役割。なんでもいいから敵を追いやる。そこだけで食い止められないと、獲得免疫というリンパ球が働く免疫が起きる。まず司令塔のヘルパーTリンパ球(以下『ヘルパー』)が働き、Bリンパ球を刺激して抗体を作らせ、ウイルスをやっつける。もう一つはヘルパーがキラーT細胞(以下『キラー』)を作らせ、感染した細胞を丸ごと殺す。抗体は細胞の外にいるウイルスしか殺せないが、キラーは細胞の中にいるウイルスごと殺せる。抗体とキラーの両方ができてこないとウイルスは簡単にはなくならない」

 

集団免疫については、自然免疫も考慮して議論しないといけないということ。単に抗体ができていないと感染するというのは早計である。これはまさに日本の感染が少なく、死者も増えていないという事実の原因の一つかもしれない。さらに自然免疫の強化・訓練についても、宮坂教授の指摘は、

 

「もともと備わっている自然免疫をうまく使えれば、ウイルスは排除できる可能性がある。その自然免疫は訓練したら強くなることが最近の研究で分かっている。よく言われるのがBCG。牛の結核菌だが、ヒトの結核菌に対する免疫ができる。BCGは自然免疫を鍛えて強くしてくれるので、獲得免疫も働きやすくなる。何10カ国を調べると、BCGを広範に投与している国は重症化・死亡率が低く、その傾向はきれいに出ているが、もちろん例外もある。ただし、BCGは子どものためのワクチンとして一定量しか生産されておらず、大人用には作られていない」

「50~60歳の人は子どものとき以来、30年以上ワクチンを受けていない。逆に学童はワクチンを10本近く受けていて、重症化率はとても低い。そのたびに自然免疫と獲得免疫が刺激されて、毎年繰り返している。そこから、なぜ子供や若い人がなりにくいか説明できる可能性はある。お年寄りはワクチン打ってから、30~40年も免疫学的なチャレンジを受けていないので、訓練免疫が効かなくなっている。お年寄りに肺炎球菌ワクチンもインフルエンザワクチンも面倒くさがらずに受けてもらえれば、思わぬ恵みがあるかもしれない」

 

免疫も鍛えられるらしい。

これだけ全世界に広がったのは香港風邪やスペイン風邪以来である。その時と比べると、遺伝子解析など科学の進歩は著しい。ぜひ今回、ウイルスとその防御である免疫システムの仕組みをさらに解明してほしい。