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令和2年10月17日と院内感染 済生会有田病院

  <10月17日>

ワクチン開発 足踏み新型コロナウイルスのワクチンで、安全面の懸念から開発が足踏みしだした。9月末以降、米製薬大手ファイザーやモデルナが相次ぎスケジュールの遅れを発表した。米トランプ大統領が10月中の投与を求めるなど政治はスピード開発を促す。一方の製薬会社は副作用の徹底検証が不可欠だとして慎重姿勢を強めている。

「緊急使用許可の申請は11月第3週以降になるだろう」16日、コロナワクチンの開発レースで先頭を走る米ファイザーが、米政府が掲げる10月中の実用化目標に懐疑的な声明を出した。

ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)はこのほど、6万人規模で進めている新型コロナウイルスのワクチンの最終治験を一時中断すると発表した。再開時期は未定だ。

米モデルナも10月を予定していた治験終了について「11月、12月くらいになる」と説明。

アストラゼネカでは副作用とみられる症状が出たとして9月に治験の一時中断を発表した。

各国当局はコロナワクチンで副作用が出た場合、政府責任での免責を確約するが、企業は安全性に不安がある医薬品を販売することで信頼性とブランドが傷つくのを恐れている。(日本経済新聞10月18日)

 

財政赤字 最悪の3.1兆ドル。米財務相は16日、2020会計年度(19年10月~20年9月)の財政赤字について、過去最大の3兆1320億ドル(約330兆円)に上ると発表した。新型コロナウイルス危機後の空前の規模の財政出動が主な要因で、赤字幅はリーマン・ショック後の09年の2倍を超えた。(朝日新聞10月18日)

 

都の都内旅行5000円補助23日予約から。都民の都内旅行に1泊5千円を独自に補助する制度について、都は今月23日の予約分から対象にすることを決めた。国の観光支援策「GO TO トラベル」とも併用できる。来年3月末か、40万泊分の上限に達すれば終了する。(同)

 

集団検査早め早め新型コロナウイルスクラスターの芽をつむため、学校や「夜の街」の接待を伴う店などで、一人でも感染が出た場合、濃厚接触者以外も含めた集団検査をする取り組みが広がっている。高齢者施設などで、感染者が確認されていなくても予防的に実施する自治体も出始めた。一方、感染者の行動追跡は難しくなっており、次の感染拡大に備え、現場からは見直しを求める声も上がる。

4月、墨田区の2病院で計114人のクラスターが発生。濃厚接触者や症状がある人の検査を行ううちに感染が広がり、対応が後手に回った。この時の反省から、8月以降は学校や高齢者施設で、一人でも感染者が出れば、集団検査を実施。同様の取り組みは都内や神奈川、埼玉県など、都市部を中心に広がっている。

最近はさらに踏み込んで、重症化リスクが高い高齢者や障害者向けの施設で、感染者が確認されなくとも、職員や入所者の集団検査に乗り出す自治体もある。

10月に始めた世田谷区では、高齢者施設で無症状の職員1人の感染が判明し、隔離された。墨田区も月内に、57施設約3000人を対象に月1回の検査を始める。区保健所の西塚至所長は「感染者を速やかに把握するための『攻めの検査』だ」と強調した。

集団検査が広がった背景には、検査態勢の拡充がある。4月下旬は国内の検査数が1日1万件程度にとどまり、発熱などの症状があっても受けられない人が相次いだ。その後、PCR検査センターが全国で開設されるなどし、現在は7万件超の検査が可能になった。

感染者が急増した6~8月、ホストクラブなど「夜の街」で集団検査が実施され、無症状や軽症者がホテルなどに隔離された。今月15日の政府の分科会では、この取り組みが感染拡大を防いだ可能性が高いとするデータも公表された。

日本の保健所では、全感染者の過去2週間の行動を聞き取って、感染源を特定する独自の追跡調査で、クラスターの早期発見につなげてきた。ただ、感染拡大時には保健所の人手が足りずに難航。歓楽街を抱える新宿区は手が回らなくなり、支援要請を受けた都が、区内のクラスターのうち約90か所を代わりに調べた。

緊急事態宣言が解除された5月、政府の分科会の尾身茂会長は「(保健所の追跡調査で)多くの感染源が突き止められた。『3密』の特徴がわかり、それを避けることが感染拡大防止になった」と評価した。一方、品川区保健所の鷹箸右子参事は「どこで感染したかわからない人が増え、効果が上がっていない」と最近の調査に疑義を呈する。外出自粛や一斉休校の後、多くの人の行動範囲が広がり、濃厚接触者はけた違いに増えた。品川区は7~8月、感染者130人超の週が続いたが、半数以上が経路不明に終わった。

国保健所会副会長で、大阪府枚方市保健所の白井千香所長は「人員に限りがあるので、感染の状況によっては全員の追跡調査に固執せず、高齢者施設への感染防止指導を優先するなど、柔軟に対応していく必要がある」と話す。(読売新聞10月18日)

 

 

 

院内感染 済生会有田病院

 

院内感染と保健所と首長たちの戦いを、前日に引き続きコロナ戦記から抜粋する

コロナ戦記 第2回 山岡淳一郎氏 世界11月号

 

2月11日、和歌山県庁に苦情めいた通報が入る。

      「済生会有田病院の50代の医師がA病院に入院している。済生会の  

      同僚の医師もB病院で受診して似たような肺炎のCT画像が撮れている

      しかし中国への渡航歴や37.5度以上の発熱が続くといった国の基準

      に該当しないから保健所はPCR検査はやりたがらない」

      情報はすぐ県の保険医療行政の実務を統べる野尻孝子・福祉保健部技監

      にあげられた。

      管轄の保健所にA病院に入院している医師の聞き取り調査とPCR検査

      用の検体確保を指示した。PCR検査の結果は2月13日の夕方だった。

      当時、国内では感染は広がっていなかった。病院内での感染は全国でまだ

      一例も報告されていなかった。     

2月13日、9時前野尻氏はA、B病院の院長に電話し、状況を聞き取る。

      B院長は「ほかにも済生会関係の人がうちに入院しており、肺炎が治り

      にくい。今日また、済生会から紹介されて外来にきた患者さんが肺炎」

      済生会有田の関係者で肺炎の患者が4人に増えた。驚きは、日本初の

      院内感染への戦慄に変わる。野尻技監はPCR検査の実施を管轄の

      保健所に命じた。

      A病院の患者のPCR検査の結果が夕方出る。一人でも出たら県の

      対策本部を立ち上げ、記者会見を開かねばならない。

      14時、集めた情報をもとに4例の経過報告をまとめ、仁坂吉伸知事に

      報告する。仁坂知事は、とうとう来たかと腹を据え、「論理的にやって

      いこう」と応じた。記者会見は19時から開くと決めた。

      15時、県の地域医療構想を検討する会議に出席したが、院内感染は

      まだ口にできない。

      16時25分、会議中にメール。「済生会病院の患者がC病院へ救急

      搬送。気管内挿管をされ重篤」5例目だ。

      18時 会議を終え戻ると、A病院に入院中の医師の陽性が判明。

      仁坂知事に事実を伝える。

      18時40分、知事は会議を途中で退席する。

      野尻技監は済生会有田病院院長に電話をかけているがつながらない

      18時55分、ようやく院長代理が電話に出る。「これから記者会見

      で新型コロナウイルスの感染発生を明らかにします。医師の社会的責任

      使命に従って感染拡大を抑えるために済生会有田病院のお名前、医師が

      感染した事実を公表します。よろしいですね」しばし沈黙が流れ、院長

      代理は息をつめ「わかりました」と応じた。

      19時15分、会見が始まり、仁坂知事が概要を説明し、野尻技監が

      言葉を選びながら経過に触れる。

      会見後も各方面への手配に忙殺され、

      23時、済生会有田病院に入院と外来の停止、医療従事者と濃厚接触

      へのPCR検査などを求めるファクスを送って長い1日が終わった。

 

和歌山県の初動の早さは感染拡大の制御を決定づけた。永寿総合病院での院内感染発生時、東京都がPCR検査の迅速化に積極的に取り組まなかったのとは大きな違いだ。

初動の山場は病院名の公表だった。野尻技監が振り返る。「集団感染の拡大を防ぐには、なによりも発生源の当事者の理解と協力が必要です。絶対的な条件です。理解が得られず、感染が隠されると防げない。私は保健所でO157の食中毒などさまざまな感染症と向き合い、危機管理を通して学びました。済生会有田病院の隣には老健施設もあり、地域の人が仕事に通っています。地域の感染を防ぐためにも名前の公表は不可欠でした。」

仁坂知事は、国の基準にとらわれない「関係者全員のPCR検査」を決断する。

並行して知事は、一般のクリニックに患者のスクリーニング機能を託す。保健所は、本来の職分である「徹底した行動履歴の調査」に精力を注ぐ。保健所がパンクしないよう、県庁に相談窓口が置かれた。和歌山モデルの誕生だ。仁坂知事は、大量検査に向けて大阪府に150検体の検査を依頼し、厚労省事務次官と交渉して試薬を送ってもらうなど率先して動いた。

 

院内感染の記者会見からわずか3週間で958人のPCR検査が行われ、済生会有田の関連では初期の患者を含め11人、それ以外に3人の陽性が判明した。亡くなったのはC病院に救急搬送された1人だ。3月初旬、済生会有田は院長が「安全宣言」を出し、診療を再開する。

 

(コメント)

済生会有田病院の事例は、現場のリーダーの機敏な対応と知事の英断による成功例である。2人の素晴らしいリーダーがそこにいた、極めてまれな話だと思う。14人の感染で抑えたという結果、初動の早さでこんなにも効果がでるのか、である。

永寿の例はこの1か月後である。ことほど成功例は簡単には共有されない。

かといって、現場のヒューマンパワーに頼るのは危険である。やはり組織的な対応、態勢である。済生会有田病院の対応がわからない。もし病院と保健所が患者を巡りコロナ情報が分断されていたとすると感染拡大の防御にはならない。これこそが問題である。組織的な態勢としては、保健所に集中していた機能を分散しないといけないだろう。和歌山モデルである。

今、インフルエンザとコロナの同時流行に備えるため、和歌山モデルに近い形になってきた。今日の新聞記事にあるように、各地の知事や区長も動き出した。

しかし和歌山の事例は2月である。もう少し早くこの教訓を学べなかったのだろうか。当初この感染拡大の実態がよくわからなかった時点で、あまりにも鮮やかに収めると何もなかったの如く忘れ去られてしまう。やはり痛い目に合わないと人間は変われないのかもしれない。