歴史が面白い200

令和3年1月1日

  <1月1日>

コロナワクチン開発速く新型コロナウイルスに対する予防ワクチンが実用化し、英国や米国で大規模な接種が始まった。メッセンジャーRNA(mRNA)」を使ったワクチン、回復者の免疫を模した抗体医薬など様々な技術開発が進み、感染症領域の技術革新は百花繚乱だ。異例のスピードで進む対コロナの医薬品開発に世界の期待が集まる。

WHOが新型コロナによるパンデミックを宣言したのは2020年3月、ワクチン開発には通常3~5年かかるといわれているが、今回は1年以内という短期間で開発できた。原動力となったのが「mRNA」「ウイルスベクター」「DNA」といった様々な新技術を使ったワクチンだ。

 

一般的なワクチンは鶏卵など動物細胞を使ってウイルスを増やす。ウイルスの毒性を弱めたり、完全に不活化したりすることで人への病原性を最小限に抑え、免疫にウイルスの特徴を覚えさせる。長年使われてきた手法で安全性も有効性も高い。

 

 しかし、今回はこの概念が一変した。世界でいち早く実用化した米ファイザーや米モデルナなどのmRNAワクチンが代表例だ。DNAやRNAといった核酸を用いるため核酸ワクチンとも呼ばれる。人体が核酸を使ってたんぱく質を作る仕組みを利用し、人工的に新型コロナのたんぱく質を体内に作り出す。

 

 ウイルスを使わず短期間で製造できるのが特徴で、最短1~2か月で最適なmRNAを合成できる。半年~1年近くかかる従来のワクチンより格段に早い。今回の臨床試験(治験)で証明された有効率は90%超。初期データだが、既存ワクチンを大きく上回る効果を証明した。大規模接種で早期に集団免疫を獲得できる可能性に期待が高まる。

 

 核酸を使ったワクチンではDNAに働きかけてたんぱく質を作らせるタイプを米イノビオ・ファーマシューティカルズ、日本のバイオ企業のアンジェスなどが開発を進めている。これまで人で使われた実績がないワクチンだが幅広い感染症への応用が期待される。

 

 ウイルスベクターワクチンと呼ぶタイプも期待を集めている。全く別のウイルスに新型コロナなど標的となる感染症の遺伝子情報を搭載する新世代のワクチンだ。培養が容易で病原性も弱いウイルスを活用し1~2か月で製造を始められる。しかも実際にウイルスに感染するため、より自然な形で強い免疫反応を引き出すことができるといわれる。近年、エボラ出血熱ワクチンとして実用化されたばかりのワクチンだが、新型コロナでも有効として、英アストラゼネカとオックスフォード大学が全世界への普及を目指している。ロシアが20年8月に治験中にもかかわらず緊急承認したワクチンもこのタイプだ。

 

 こうした新技術は安全性や有効性を確認し実用化するまでに10年近くかかる例もある。だが世界的な危機なら、素早く商業化できる可能性がある。各国・各企業が実用化を急ぐのはコロナ後の世界の競争を見越しているからだ。

 

技術革新が進むのはワクチンだけではない。注目を集めているのが抗体医薬だ。現在、新型コロナ治療に使用している薬はエボラ出血熱向けに開発された「レムデシビル」、抗炎症剤として使われている「デキサメタゾン」など既存薬の転用が多い。

 

米リジェネロン・ファーマシューティカルズと米イーライ・リリーが開発した抗体医薬は、新型コロナ向けに一から開発した新薬だ。感染から回復した人の血液内にある「中和抗体」を分析し、新型コロナウイルスに結合する抗体医薬を創製した。従来はコスト面で感染症治療に向かないとされた抗体医薬だが、コロナ克服への期待が高まる。

 

新技術の登場と実用化でパンデミックは収束に向かうのか。21年は人類と感染症の戦いの勝敗を占う年となりそうだ。(日本経済新聞 1月1日)

 

 

(コメント)

mRNA医薬がブレイクスルーした。2000年代後半にmRNA医薬が将来ものになると考え、研究者がベンチャーで創業したという。今突出しているアメリカのモデルナ、ドイツのビオンテック、キュアバックの3社はそういう企業である。

コロナワクチンで最初にmRNAが実証されつつある。

 

ワクチンで気になるのは副反応である。

大阪大学の宮坂昌之教授によると、治療薬では「副作用」というが、ワクチンの場合は違うという。ワクチンの主な作用は「免疫を付与する」ことであり、ワクチン接種に伴う反応(局所の赤み、発熱、腫れ、全身の発熱など)は、実は炎症性サイトカインがたくさん作られるために起きるもの。したがって、これらの反応は副次的なものではなくて、免疫反応の結果。このような理由から、これらの現象は「副作用」ではなく「副反応」と呼ばれる。副反応とは、ワクチンがからだの免疫反応を利用したものであることから、一定程度の生体の反応、特に炎症反応が起こることは防げない。

一番よくあるのは、接種した部位が赤くなり、腫れてしこりができることや、全身の発熱。通常1~2日以内に治る。

 

副反応はそもそもワクチンの目的から派生するもので避けられないものだ。しかし、重篤な症状が稀では起きるという。免疫反応は個人差があり、数千人単位では思い副反応は見られなくとも、もっと大きな集団ではきわめて少数の人たちで命に係わる重い副反応が見られることがある。

 

さらに、悪い抗体というのがある。一般にワクチンでできる抗体は、ウイルスを中和して、感染を防ぐ役割を果たすが、抗体が症状を悪化させる現象が、半世紀以上前にデングウイルスの感染で見つかり、抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれている。

mRNAワクチンはこのADEについてはどうか。mRNA医療に詳しい東京医科歯科大学生体材料工学研究所の位高啓史教授によると、

これはmRNAテクノロジーではなく、むしろ新型コロナ(Covid-19)そのものの問題だ。例えばジカウイルスではこのADEが強く出てワクチン開発が中止になったものがあった。ジカウイルスがそもそもそういうウイルスだからだ。コロナもADEを起こしやすいタイプのウイルスかもしれないという心配はある。その場合、一般のワクチンでも同じことは起きる。そうなるとコロナを制圧するためにワクチンが使えないという方向に行く。これはmRNAワクチンだけの問題ではない。ただ、mRNAワクチンは細胞性免疫を比較的強く誘導しうると言われている。ADEを起こしにくい細胞性免疫に比重を置いた方が有利だ。mRNAワクチンは比較的ADEを起こしにくいと期待できる。

 

そもそもリスクはどこにでもある。要はワクチン接種によるメリットがその少ないリスクを許容できるかという話になる。十分な情報公開と専門家による議論が必要だ。