歴史が面白い58

令和2年8月10日とパンデミックの序章「中」

  <8月10日>

日英など共同調達新型コロナウイルス感染症のワクチンを巡り、日本政府と英国などが共同で買い付ける枠組みが今年秋にも動き出す。2021年までに20億回分を確保する計画で各国の開発企業との交渉を本格化する。(日本経済新聞8月11日)

 

新型コロナ対策「ゼロゼロ融資」。無利子・無担保融資は新型コロナウイルス対策として政府が新設した制度で、銀行の貸出が過去最高の伸びだ。ゼロゼロ融資は5月から3カ月余りで60万件超実行された。これも手伝い、全国銀行協会によると、銀行の7月末の貸出金残高は535兆2170億円と前年比約7%増、伸び率は3カ月連続で最高を更新した。

城南信用金庫理事長 川本恭治氏・・「融資実行額は感染拡大前と比べ、5月が約4倍、6~7月は8倍ほどだ。新たな取引開始も1千件以上ある。実質無利子・無担保融資が民間金融機関でも可能になった影響が大きい。年内は資金繰りのめどがついた企業も、年明けには金融機関がリスクを負って融資するかどうかの判断をつきつけられるだろう。融資はけがにばんそこうを貼るようなもので、根本的な解決にならない。」

 (朝日新聞8月11日)

 

新型コロナ 世界2000万人新型コロナウイルスの世界の累計感染者が10日、2000万人を超えた。1500万人に到達した7月22日から19日間で500万人増えた。各国で経済再開が進んでいることもあり、感染者が増えるペースは加速している。米国、ブラジル、インドで世界の感染者の半分を占める。9日はインドでは6万2064人、米国で4万6935人、ブラジルで2万3010人の新規感染者が確認された。(日本経済新聞8月11日)

 

ワクチン「10兆円必要」。WHOのテドロス事務局長は10日記者会見で、新型コロナのワクチンの開発などに向け「1000億ドル(約10兆6000億円)以上が必要だ」と述べた。各国政府や企業にさらなる資金支援を求めた。WHOは、ワクチンや治療薬、新弾薬の早期開発と普及に向け、国際的な協力体制「ACTアクセラレーター」を立ち上げた。2021年末までに世界で20億回分のワクチンの供給を目指している。このうち半分は低・中所得国向けだ。テドロス氏は、ワクチンの開発が最終段階に入ったと説明。今後3カ月間が重要な時期になるとして「資金調達を拡大しなければならない」と話した。(同)

 

<<コロナの時代(朝日新聞)>>

 

パンデミックの序章「中」

<「ヒトヒト感染」情報届かず(7月5日)>

 

新型コロナウイルスの検出が公表されたのは、1月9日。次の課題は「ヒトからヒトに感染するのか」の判断だ。武漢市衛生健康委員会はこの段階で「ヒトヒト感染の明確な証拠はない」との見解を示していたが、現場の医師の見方は違っていた。

華南海鮮卸売市場とその周辺にとどまっていた感染の範囲が、1月に入って急拡大した。家庭内感染と見られるケースも相次ぎ、11日には看護師の感染が報告された。新型ウイルスが検出されて以降、武漢でも北京でも政府の動きは鈍かった。武漢市当局が発表する感染者の数は、11日に計41人の感染を発表した後、17日まで1人も増えなかった。

因果関係は不明だが、その間、武漢では3月に予定されていた全国人民代表者大会につながる重要な政治イベントである湖北省人民代表大会が開かれていた。

ヒトからヒトへの感染については15日に「可能性は排除できない」とやや踏み込んだが、それでも「証拠はなく、リスクは低い」と認定を避けた。結局、北京でヒトからヒトへの感染が公表されたのは、ウイルス検出かせ約2週間たった1月20日のことだ。

 

春節を間近に控えた1月18日、武漢市漢口地区北部にある団地「百歩亭」のコミュニティーセンターでは、恒例行事「万家宴」が開催された。約4万人の住民が手作りの料理を持ち寄り、歌や踊りを楽しんだ。万家宴の2日後、北京でヒトからヒトへの感染が明らかにされた。そして23日、人口1千万人の武漢全体が封鎖された。

 

中国でヒトからヒトへの感染を判断し、公表する責務を負うのは日本の厚労省にあたる国家衛生健康委員会だ。その後の報道や証言からは一貫して判断に慎重だった様子だ。国営新華社通信によると、同委員会は1月14日、全国の衛生当局とテレビ会議を招集。武漢に派遣した専門家グループの報告をもとに対応を協議した。同委員会は「ウイルスへの理解が足りない」として判断を保留。二の足を踏み続ける同委員会の幹部を動かしたのは、感染症の泰斗とされる2人の専門家だった。

同委員会が18日夜、武漢に専門家グループを派遣。その中に、政府直属の最高研究機関・中国工程院の院士である李蘭エンと鐘南山の姿があった。一行は19日午前から現地を視察し、午後に非公開の会議を開いた。そこで最初に発言した李の訴えが全てだ。「すでにヒトからヒトに感染している。医療従事者の感染が何よりの照明だ。春節の帰省がピークを迎える。手を打たなければ、全国に広がってしまう」。それを聞いた委員会トップの主任・馬暁偉は政府上層部に直接報告するよう鐘らに求めた。すぐに北京に戻った鐘と李は首相の李克強に状況を伝えた。鐘が国営中央テレビの報道番組に出演し「ヒトからヒトへの感染が証明された」と初めて明かした。

 

国家主席習近平は、武漢で感染が広がった当初から問題意識を持っていたーこれが党や政府の公式見解だ。1月7日の政治局常務委員会で対応の徹底を求め、1月14日の国家衛生健康委員会のテレビ会議でも感染阻止の指示が伝えられたとされている。

しかし、これらの発言は、いずれも2月中旬以降に事後的に発表されている。当時の動きは、武漢で原因不明の肺炎が発表された昨年12月31日、中国の伝統劇を鑑賞して新年の到来を祝った習は、その後も中央財経委員会(1月3日)など、感染と無関係の

仕事をこなした。17~18日にはミャンマーを公式訪問。北京にもどらず、地方視察のため、19~21日は雲南省にいた。1月20日、習は「人民の生命の安全と健康を最優先に感染を断固抑え込め」と指示したのは雲南省から発出された。その時すでに新型コロナウイルス武漢から市外、そして国外にも広がっていた。この間の対応は、衛生当局関係者は「おそらく情報が上層部には十分上がっていなかった。組織の面でも問題があった」と指摘する。一つは、中国の巨大な行政システムで、実情を把握する医療機関が持つ権限があまりにも弱いことだ。危機を察知しても勝手に公表できず、中央にも直接通報することも許されない。地元レベルで目詰まりが起きれば、その声は北京には届かない。2月、湖北省武漢市のトップが相次ぎ解任された一因は、感染状況が過少報告だったとされる。