歴史が面白い57

令和2年8月9日とパンデミックの序章「上」

  <8月9日>

医療クラスター再拡大医療機関でのクラスターの発生が再び目立つようになった。ここ2カ月あまりで新たに50件近くが発生し、数十人単位の大規模感染に至ったケースもある。千葉県のタムス浦安病院や鹿児島県与論徳洲会病院などだ。

海外でも院内感染は被害を左右してきた。イタリアは院内感染から爆発的な拡大が起こったと考えられている。ロイター通信によると「国内感染第1号」とされる男性を治療中、病院で一度も隔離しなかったことで、感染確認後1週間以内に888人の感染が確認され、21人が死亡した。マスクなどの防護具の不足も重なって医療従事者に感染が広がり、大規模な医療崩壊に陥った。(日本経済新聞8月10日)

 

松江の高校、88人感染島根県松江市は9日、新たに92人の新型コロナウイルスの感染者を確認したと発表した。このうち88人が立正大淞南高校(松江市)の関係者で生徒が86人、教職員が2人だった。生徒のうち80人がサッカー部の同じ寮に在籍しており教職員2人もサッカー部関係者だつた。松江市は同校のサッカー部の寮でで大規模なクラスターが発生したとみている。(同)

 

 

<<朝日新聞 特集コロナの時代 7月4日~7月7日>>

パンデミックの序章「上」

朝日新聞は特集で3回にわたり、コロナ災禍は中国でどのようにして始まったかの検証が行われた。この記事を3回に分けてポイントをまとめたい。

 

武漢 最初の感染者を追う(7月4日)>

昨年12月31日、武漢市当局は初めて「原因不明の肺炎患者が27人いる」と発表。その多くが漢口駅近くにある今は閉鎖されている華南海鮮卸売市場の関係者だという。リストを入手したメディアは、一番早い発症は50代女性の12月11日だと伝えていた。

市場周辺の住民に聞くとその女性は12月10日ごろ、市場内でエビを売っていたという。女性は「熱が出た」と言い、軽い咳もしていた。市場近くの小さな診療所で点滴を受けたが、なかなか治らなかった。1週間後、女性の容体は悪化し、近くの病院に入院した。退院したエビ売りの女性は郊外の別の市場で商売をしていたが、1週間近く通っても会うことはできず、電話をかけてみたが「今さらそんな話をしてどうなるの」と口を閉ざされた。彼女に限らず、市場で働いていた人の多くは当時を語りたがらない。

その後の中国当局の調査で、女性より早い12月8日に発症した男性の存在も確認された。男性は「市場には行っていない」と話しているという。

 

女性の容体が悪化したころ、新型ウイルスはすでに市場の外にも広がっていたようだ。市場から歩いて数分の距離に、多くの市場の関係者が住む一画がある。細い路地が続き、古びたアパートが軒を連ねる。ここに暮らす約5千人の半数以上は武漢に戸籍を持たない出稼ぎなどの労働者だ。昨年の12月半ばその路地にある小さな診療所に連日、人の列ができていた。行列は連日、早朝から深夜まで絶えなかった。多くの患者の症状は発熱で、軽い咳をする人もいた。同じような状況は、市場の周囲に点在していたほかの診療所でも起きていた。中国の病院では予約手続きや検査に時間がかかるうえ、貧しい人に過重な費用がかかる問題が指摘されてきた。12月末に市が「原因不明の肺炎患者」としてリストアップした27人の多くが、最初は病院ではなく、こうした地元の診療所を頼った。

 

市場に中心に広がった奇妙な病。武漢市内の拠点病院の医師たちが異変に気づき、原因解明に動き出したのは、年の瀬も迫ってからのことだった。

12月27日、中西医結合病院の医師が、ウイルス性肺炎が疑われる4人の患者に共通する特異な症状を地元の疾病コントロールセンター(CDC)に報告した。その2日後には原因不明の患者7人が、武漢感染症対策の拠点だった病院に集められた。当時の院長は「伝染病の集団感染は毎年あり、普段通り対処をした。これほど大きな事態になるとは、この時はまだ想像できなかった」と振り返る。

武漢中心病院も12月27日、原因不明の肺炎患者の検体を北京の検査会社に送った。3日後に届いた回答は「SARSだ」というものだった。院内に緊張が走り、医師らは「気を付けようと」と声をかけあった。

その中の一人が、眼科医の李文亮だった。亮はすぐに、SNSのグループチャットに「SARSにかかった人が私たちの病院に隔離されている」と書き込んだ。それがネット上で拡散し、ネットメディアが取り上げ始めた。ざわめく世論に押されるように、武漢市が原因不明の肺炎患者の存在を公表したのは翌31日のことだ。

李はその後、「デマを流した」として警察から処分を受け、その後自らも感染して亡くなった。いち早く未知のウイルスへの警鐘を鳴らしながらその犠牲となった李は、当局による情報統制のひずみを示す象徴になった。

1月5日ごろまでにウイルスの遺伝子配列が判明。1月7日には政府のCDCが、感染した細胞からウイルスを分離した。SARSとも違うコロナウイルスであることを確認し、中国政府が「新型」の検出を正式に公表したのは、1月9日だった。