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令和2年8月30日とPCR検査「上」

  <8月30日>

ウイルス飛散 予防は不十分新潟大学の赤林伸一教授は、新型コロナウイルスの感染予防のため国が決めた基準量で換気しても、ウイルスの飛散を防ぐ効果が不十分だとシミュレーション結果をまとめた。

教室に感染した生徒がいた場合、生徒が退席してから10分後もウイルスを含む飛沫の6割は室内全体に広がり残っていた。

換気が悪く密閉された場所では、新型コロナウイルスの集団感染が起きやすいとされる。国は窓を開けにくい商業施設などで空調する場合、1人当たり1時間に30立方メートルの換気を推奨する。

ウイルスの飛翔シミュレーションでは理化学研究所の「富嶽」を用い、教室の換気を始めてから500秒後にウイルスを含んだ飛沫の95%が教室から排出されるとの結果を公表した。この計算では、新潟大学の約7倍の室内空気を排出している。

10マイクロメートルの飛沫は空気中を漂う微粒子(エアロゾル)に含まれる。WHOはエアロゾルを介して新型コロナウイルスが感染する可能性があるとの見解を出している。(日本経済新聞8月31日)

 

<<PCR検査「上」>>

 

PCR検査が目詰まりしているとの指摘が3月以降ずーと続いている。安倍首相はじめ政権の認識も一致しており、その対応については公式に述べられてきた。

政府が8月28日に発表した新型コロナウイルス対策にも、その柱となる検査能力の拡充において、季節性インフルエンザの流行に備え、簡易キット型の抗原検査を1日20万件程度実施できる体制を構築するとした。実現すれば現在のPCR検査能力の5万9千件と合わせ1日26万件近い検査が可能となるとしている。

 

PCR検査を巡る課題では、検査能力の拡大とその検査時間の短縮の2つのがあるが、さらにどこまで検査対象を広げるかという感染対策での大きな戦略上の議論もある。

3回に分けPCR検査を巡る問題について整理したい。

 

検査能力では、4月ごろの第一波では発熱などの症状が続いても保健所などが検査を断る事例が問題となった。当時は検査能力が1日1万件程度に限られ、検査対象を感染の疑いが強い人に絞り込んでいた。その後に検査能力は高まったが、7月に入って感染者が急増。再び検査の上積みを求める声が強まっている。1日の検査能力は4月に比べて7月末で3万5千件、8月末で6万366件と増えてきているが十分とは言えない。

7月末の時点で「今の十倍以上に能力を高めるべき」(柳原克紀長崎大学教授)とするコメントがあり、それだとおよそ30万件で、また8月28日発表の政府の対策では抗原検査を含めて目標26万件としていることからも約30万件がひとつの目標であると言える。

 

PCR検査は時間がかかるという問題では、患者が結果を受け取るまで3日程度かかるということだ。判定に時間がかかれば無自覚の陽性者が感染を広げかねない。検査時間を縮める装置の活用や検体輸送の効率化が課題となる。

日本でも通常5時間かかる検査時間を短縮する装置が開発されたほか、鼻やのどの粘膜だけでなく唾液も検体に使う検査装置、試薬も発売された。医療現場での活用も始まったが、それでも時間の短縮に限界が出ている。

原因のひとつが装置の置き換えの難しさだ。大規模な機器は解析時間がかかり、解析時間を縮める新開発の機器は処理人数が少ない。どちらも弱点は抱えるなか、担当者は「実績のない他社装置に切り替えるのは慎重になる」との声もある。価格の問題もある。検査機器は1台数百万円から数千万円かかる。

制度も課題だ。多くの医療機関は検体を衛生研究所や検査会社などに輸送し結果を待つ仕組みをとる。検体を運ぶ場合、WHOの規則と厚労省の省令に基づき、病原体を入れる密閉性の高い容器を緩衝材と吸収材で包み、さらにそれを二重の容器で包む「三重梱包」の措置をとらねばならない。検体は専門業者が複数の医療機関から集めて輸送に回すが、作業は1日かがりとなる場合が多い。検体を通じた感染リスクを防ぐ必要があり、規則の緩和は困難とされている。

検査結果を診断書にする作業も時間がかかる。医師が複数患者の検査データを読み込むのは容易ではない。

 

検査スピードを上げるひとつの手が小規模な検査システムの確立だ。日本医師会は8月5日、検査機器の配備増設を政府に求めた。クリニックでも時間短縮の設備を導入できるような政府支援があれば、検体輸送の問題が無くなり、診断書作成の煩雑さも緩和される。

 

PCR検査が構造的に迅速化をはかりにくいなかで、注目を集めるのが「抗原検査」だ。PCRと違い30分程度で結果が分かる。ただ、感染初期の人を見つける精度がPCRより低いことや診療報酬の安さから医療の現場では採用が進まない。