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令和2年9月1日とPCR検査「下」

  <9月1日>

世界株 時価総額最高に。世界の株式時価総額が膨らんでいる。8月末時点で89兆ドル(9400兆円)強と、月末ベースでは2019年12月以来8カ月ぶりに過去最高を更新した。米中がけん引し新型コロナウイルスによる消失分を取り戻した。景気や企業業績に比べて回復が急で、市場が楽観的すぎるとの指摘も増えている。

世界の投資マネーが米国株に向かっており、テスラやアップルの時価総額の増加が大きい。米国の時価総額は世界全体の42%を占め金融危機後に最大のシェア。中国は昨年末より4割増えた。日本の時価総額は昨年末に比べ4%減で、中国とは抜きつ抜かれつだったが、コロナで差が開いた。(日本経済新聞9月2日)

 

後手に回ったコロナ検査。季節性インフルエンザの同時流行が懸念される秋冬には、これまでと異なる試練が医療現場を襲う。インフルエンザの流行期には3千万件もの検査需要が発生する。発熱などの症状だけではインフルエンザかコロナか判別できない。政府は新たな対策では、現状1日3万件程度の抗原検査の能力を20万件に引き上げるとしている。メーカーの増産により検査キット供給の目途は立っている。ところが検査を実施する体制づくりに不安が残る。厚労省都道府県に9月中にインフル流行期の検査計画をつくるように要請している。だが「院内感染を恐れて発熱患者を受け入れない診療所が出てきそうだ」(厚労省の担当)という。(同)

 

ワクチン共同購入参加。加藤厚労相は1日、新型コロナウイルス感染症のワクチンを複数の国と共同で購入する枠組みに日本も参加する方針を表明した。この枠組みは2021年末までに全世界で20億回分の供給を目指している。日本への供給量は未定だが、ワクチン確保の手段の一つになる。(同)

 

アストラゼネカ、最終治験。英製薬大手アストラゼネカは1日までに米国で新型コロナウイルスワクチン開発の最終段階の臨床試験を始めたと発表した。米政府が支援するワクチン開発での最終の治験入りは3件目。対象は成人3万人で感染予防効果や安全性を確認する。(同)

 

コロナ雇止め5万人総務省が1日発表した7月の完全失業率は2.9%と前月から0.1ポイント上昇した。厚労省の8月末の調査では、コロナによる解雇・雇止めは全国で5万人を超えた。コロナ禍で急激に増加した休業者は一服。緊急事態宣言下の4月の597万人から7月は220万人にまで減少した。従来の水準に近づいている。(同)

 

 

<<PCR検査「下」>>

 

感染拡大を防ぐために検査体制の拡充が必要であるとの認識は広く共有されつつあるが、具体的な戦略にはなお不透明なところがある。その議論のポイントは無症状者の検査である。

 

海外では英国などで無症状者への積極的な検査による感染抑止の成功例がある。英国では、6月1日時点での検査は約7万7千件で感染者は約1500人となり、陽性率は2%だった。7月末時点で検査は約12万8千件に増えたが感染者は約500人に減り、陽性率は0.4%まで下がった。英国では地域限定の都市封鎖を継続するとともに、増強した検査能力で対象者を拡大した。集団感染が発生した場所では積極的に検査し、無症状の感染者を見つけている。さらに介護施設職員は毎週検査を受け、タクシー運転手など感染リスクが高い人を対象に検査をしている。

 

日本では「第1波」の3月~4月、全国で検査が受けられない人が続出し、安倍首相が4月6日、検査能力を1日2万件に倍増すると表明。その後、国は保健所や地方衛生研究でできる検査数を増やすため、検査機器の導入を促し、民間の検査機関の設備投資も支援している。医師が必要と判断した場合は保健所を介さず検査ができる「PCRセンター」の設置が各地で進むなど「目詰まり」を解消するための対策が打ち出されている。検査能力は7月末で4万2千件から8月末は約6万件(厚生労働省)と増加しているがまだ十分とは言えない。

さらに季節性インフルエンザの流行をにらむと、インフルエンザの検査実績は1日当たり最大で30万件である。別の議論になるがこちらは喫緊の課題である。政府は抗原検査を上積みして対応する予定である。

 

議論に戻りそもそも無症状者への検査としてどこまで広げるかである。

 

日本医師会 COVID-19有識者会議は8月7日、PCR検査の拡大について緊急提言を出した。そこではPCR検査体制を構築する上で2つの柱を考えることが適切としている。

1つは、PCR検査を必要として人達に十分なPCR検査を提供する、といこと。これには、何らかな症状がある人、感染者が発生した場合の濃厚接触者の現行の対象者に加え、感染者が立ち寄った施設の全利用者および全従業員、場合によってはさらに施設近傍の地区の住民にまで拡大し徹底的にスクリーニング検査が実施できる体制が望ましい。これらに加えて、医療関係、介護施設のように、感染リスクの高いと考えられる人々に対して別枠で積極的スクリーニング検査体制を新規に構築することが望ましい。

2つ目は、地域における感染拡大を防ぐために、大規模なPCR検査が必要である。米国のニューヨーク州で行われているように、感染が拡大している地域では、地域住民に対して積極的にスクリーニング検査を実施し、無症状者を含めて、感染者を見出し、感染拡大を防ぐ対策をとることに役立てせるために行う大規模PCR検査が必要である。社会経済活動を止めることなく、感染拡大を防ぐためには、地域を対象とした、大規模PCR検査の実施が必要であると考える。

とし、規模としてニューヨークの例を参考にすると、東京都では少なくとも1日10万件程度の検査能力が必要であり、全国規模で考えると、さらに数倍の検査能力を確保する必要があるとしている。

 

要は、医師会は特に2つ目をみるとPCR拡大派である。これに対し、政府や政府専門家会議は拡大には慎重な姿勢を貫いている。

 

ドイツ在住、WHOでアウトブレイクサーベランスやパンデミック対策に従事した経験も持つ医師・ジャーナリストの村中璃子氏によると、PCR検査が有効となるのは、対象とする人を「感染の疑いのある人」に絞った場合である。感染の疑いのある人というのは、症状がある人、濃厚接触者、流行地への渡航歴のある人、クラスターが発生した場所にいた人などだ。たとえば、クラスターの出たライブハウスに行った若い人で、咳や息切れがあり、CTでは肺炎像があるのに「陰性」となったら、その結果は怪しい。もう一度PCR検査を行う。しかし、疑わしい症状も行動歴もない人が、一度「陰性」と診断されれば仮に感染していたとしてもわざわざもう一度PCR検査を実施することはまずない。このように、PCR検査は、その精度の低さを症状や行動歴、他の検査結果などで補って使うのが原則となっている。

 

4月末、ヨーロッパでロックダウンの解除が始まったころ、「PCR検査はたくさん実施すればするほど流行が抑制できるというもまではない」という事実が各国の分析により明らかになり始めた。その先駆けの一つ、英インペリアル・カレッジの報告書「新型コロナウイルスの流行抑制におけるPCR検査の役割」によれば、PCR実施件数と流行の抑制状況には相関関係はなく、PCR検査を多く実施して1人でも多く感染者を見つけることに血眼になるよりも、PCR検査による感染者の全数把握は不可能であることを前提に、人と人の接触を低減させること、いわゆる「ソーシャルディスタンシング」を実行することの方が効果的であると結論付けた。

 

PCR検査を多く実施した国では、偽陰性の感染者が安心して出歩き、かえって感染が拡大した可能性もあるとの指摘もあった。当初、無症状者は流行にはほとんど関与しておらずその把握は重視しなくてよいと考えられていた。しかし、無症状者であっても感染しておれば、発症の数日前から、発症している人と同じくらいのウイルスをもつことが明らかになった。無症状者に対するPCR検査の偽陰性率は高く、「発症4日前で100%、発症前日でも67%」つまり、感染していても症状がなければ、発症前日でも3人に2人はPCR検査で陽性と判定されないとするデータが出てきた。

 

これは、無症状だが感染力のある人をPCR検査だけをたよりに特定することは極めて難しく、英インペリアル・カレッジの評価を裏付けるものとなった。

 

高いPCR検査実施キャパシティに任せて積極的なPCR検査を行った韓国では、医療者のマンパワーがPCR検査に割かれ、病棟で患者を診る医師が減った。陽性が確認されれば軽症でも入院させて隔離を続けた結果、病床はパンクした。入院基準を見直すことで短期間のうち改善されたが、「救命のための医療リソース」を残しておくという日本の当時のやり方は理にかなっていた。

 

(コメント)

PCR検査の対象を拡大するかどうか、拡大派の医師会の提言、慎重派については感染症医療サイドの代表的な意見をくらべてみたが、医師会の1つ目の拡大については納得できるが、2つ目は感染症対策としてはいかがなものかと考える。やはり、PCR検査は精度が高いとは言えないレベルであり、それを踏まえた使い方しないと、一般社会に与える負の影響の方が大きいと言わざるを得ない。

それでも感染が疑われる人という前提のなかで、症状とPCR検査を合わせて見ていくことは現状ではベストの対応でこれは進めていくべきであると考える。検査の精度については、症状があるのに陰性なら時間をおいてもう一度PCR検査をすることで対応できる。

 

検査の拡大については、医師会の1つ目の対象にある「医療関係、介護施設のように、感染リスクの高いと考えられる人々に対して別枠で積極的スクリーニング検査体制を新規に構築することが望ましい」については諸外国の例にもあるが、感染の疑いのある人として括れる範囲であり拡大はのぞましいと思われる。