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令和2年8月23日と官邸 非常事態「6」

  <8月23日>

新型コロナ、米エール大・岩崎教授新型コロナウイルスへの免疫応答の研究で最前線に立つ岩崎教授だ。「重症化する患者ではウイルス感染に関係のない、寄生虫に対するサイトカイン(細胞から分泌される生理活性物質の総称)がたくさん出るのが特徴的だ。それ以外にもインターロイキン18で炎症は起こすがウイルス防御には効果がない「悪い」サイトカインだ。こうした物質を抑えれば重症化防止に役に立つ可能性がある。この仮説に基づく臨床試験が進行中。

感染しても無症状の人は免疫の「記憶」が寄与しているのではないかと言われている。T細胞に過去の感染の記憶が残っている証拠が出始めており、それが確かなら有効な防御になる。

抗体が長く維持されないとの見方があり、ワクチンの効果は期待できるかと言われているが。抗体が減ったからといって免疫がつかないわけではない。ワクチンで得られる免疫は自然で生じる免疫に比べ効果が高い。濃度の高い中和抗体(細胞への感染を阻止する物質)を生み出せるからだ。抗体が長続きしないことはワクチンへの期待を損なう理由にはならない。

感染してから長期間にわたって深刻な体調の不良を訴える人がかなりいる。こういった「コロナ後遺症」は健康な若者に多く、男性より女性が多いようだ。自己免疫疾患ではないかと仮説を立てて解明に取り組んでいる。免疫機構の暴走の末に、体内に出来た抗体が自分自身の組織を攻撃してしまうようになったのではないか。自己免疫疾患と分かれば治療法も編み出せるはずだ。」(日本経済新聞8月24日)

 

中小の休廃業率 世界平均を下回る。新型コロナ禍による中小企業の休業や廃業が日本は海外に比べれば少ないようだ。OECDによると5月末時点の休廃業率は10%に達した。世界の26%よりは低い。欧州のような厳しい移動制限がなかったことが背景にあるが、感染が再拡大すれば危機は長引く。コロナ下で中小の休廃業率が高い米国や英国などは平時も廃業と開業が10%を超え、革新的な企業が経済をけん引する流れがある。各国の数字は、日本、韓国、ドイツ(0~10%)、フランス、イタリア、ベトナム(11~20)、米国、ロシア、タイ(21~30)、ブラジル、メキシコ、トルコ(31~40)、英国、インド、南アフリカ(41~50)、アイルランド(51~60)。(同)

 

保育士ら2万人PCR。東京都世田谷区は、区内すべての介護施設職員や保育士ら計2万人を対象に、発熱などの有無にかかわらず、新型コロナウイルスのPCR検査を一斉に行う方針を固めた。総額4億円の費用は公費負担とする。検査完了には約2カ月かかるとみている。9月開会の区議会で決定する。(読売新聞8月24日)

 

<<コロナの時代 (朝日新聞(7月18日))

 

  <官邸 非常事態「6」>

新型コロナをめぐる動き(5月16日~7月18日)

5月20日  今夏の全国高校野球選手権大会、地方大会の中止が決定

  21日  政府、近畿3府県の緊急事態宣言を解除

  25日  政府、緊急事態宣言を全国で解除

6月 2日  東京都、警戒を呼びかける「東京アラート」を発動

       首相、「9月入学」の導入を事実上断念

  11日  都、東京アラートを解除

  19日  政府、都道府県境をまたぐ移動自粛を全面解除

       政府、感染者接触確認アプリの提供を開始

  24日  経済再生相、政府の専門家会議「廃止」を表明

       専門家会議、専門家と政府の役割「明確化」を提言

  30日  大阪府の製薬会社、ワクチンの治験を開始。国内初

7月 1日  東京ディズニーランドが営業を再開

   3日  政府、専門家会議を廃止。「後継」の分科会発足

  10日  政府、イベント開催制限を緩和

 

政府の意思決定において、専門家はその主張が官邸に必ずしも採用されたわけではなかったが、重要な局面では前面に立たされた。2月末に独断で一斉休校に踏み切り、「専門家の意見を聞かない」と批判されていた安倍首相は、緊急事態宣言の発出や延長、解除にあたっての会見に尾身氏を伴って出席。「尾身先生からお答いただければ」と度々促した。

 

一方、政府決定を専門家が知らされていないという場面もたびたび見られた。緊急事態宣言の延長が決まった5月4日夕。安倍首相は官邸で開いた会見で「10日後の14日を目途に、専門家の皆さんにその時点での状況を改めて評価いただきたい」と述べた。延長を31日までとしておきながら、期間満了を待たずに解除する可能性を示唆したもので、多くの専門家会議のメンバーにとって寝耳に水の話だった。官邸側は、会見に同席した尾身氏にすら直前に伝えたという。

 

そして6月24日、そんな政治と専門家の関係を象徴する出来事が起きた。コロナ対応を担当する西村経済再生相は記者会見で、これまでの専門家会議を廃止し、新たな会議を設置すると発表した。同じころ、尾身氏は別の会議で政府と専門家との役割を明確化することなどを求める記者会見をしていた。記者から会議の廃止が発表されたことを質問されると、尾身氏は驚きの表情を浮かべて言った。「私は聞いていません」